子供たちが伸び伸びと、そして楽しく野球ができることを念頭に、寺尾パワーズでは、通常の野球の練習とは別に、新たな取り組みをコーチ陣が考え、いくつか実現してきました。
その中の一つとして、子どもたちが主体となって試合を行う取り組みを実施しました。これは、「サイレントリーグ」とか「サイレントサッカー」と呼ばれているサッカー界から生まれた取り組みを、当チームが独自に野球に当てはめた取り組みであり、こちらの取り組みについて紹介したいと思います。
サイレントリーグの詳細については、ネットで検索するといくつか出てきますので、ここでは割愛します。
現在でも一部の野球チームでは、監督が偉く、罵声が轟くいわゆる昭和の野球が根付いているチームが少なくとも存在します。
そのような野球チームは、監督の言うことが絶対で、理詰めと威圧で子供たちを追い込み、子供たちも黙って従っていればそれ以上に怒られないので、反発もしません。
確かにそういうチームはよく統制されていて、非常に強く、数々の大会で優秀な成績を残しているのは事実としてあります。しかしながら、それが本当に子供たちのためになっているとは思えません。
躾を教えるための叱りは必要ですが、思い通りにならない理不尽な怒り方は指導者のエゴに思えてなりません。とある中学生リーグの監督のブログの中でも、指導者は「怒る」と「叱る」の区別を理解しなければならないといってます。将来、優秀な選手を育てたいという気持ちは分かりますが、厳しい指導のやり方に問題があると考えます。
小学生と言えば、人生からするとまだまだ始まったばかりであり、当チームでは、まずは野球の楽しさを知り、野球を好きになってもらうことを念頭に指導しています。そしてただ言われたことを、言われた通りにやるだけではなく、自分たちで考えて行動する、自発的に自立して動ける選手を育成していきたいと考えています。これは将来、社会に出ても役立つスキルであり、そういった自発的に行動できる子供たちを育てたいという考えから、子供の主体性を重視するこの取り組みを実施することにしました。
参考にしたサイレントリーグは、大会そのものがその趣旨に沿った取り組みです。しかし、野球にはそのような取り組みを実施するところは少なくともパワーズの周りでは実施していませんので、当チームで独自に取り組みました。ただし、この取り組みは、試合中に独自に実施していることから、相手チームに迷惑をかけない配慮をしつつ、取り組みました。
基本的な方針やルールは、サイレントリーグと一緒で、
・試合に関わるほぼ全てのことを子供たちに委ねる。
※試合の日程調整や、試合中の交代など監督や指導者しか許されていない、できないものを除く
・朝の集合から、帰りの後かたずけ完了までを範囲とする
・この取り組み中は、指導者や大人は自ら口出ししない
さらに、当チームでは、ベンチメンバー全員を試合に出場させるといった条件も追加しました。
これらを実現するするために土日の練習時間をわざわざ割き、試合には何を用意しなけれならないのか、試合当日の練習の時間配分、スタメンや打順、守備位置、交代タイミングをどうするかといったことを事前に団員全員で話し合いました。
初めての取り組みだったこともあり不安を残しつつも迎えた試合当日は・・・
前日の雨のせいで、試合開始が遅延するというトラブル発生。当初想定していた練習スケジュールが思い通りに進まないハプニング。
試合会場ではパワーズが試合のホスト役なので、指導者は雨上がりのグランド整備に追われ、ノックやバッティング練習のためのボール投げが思い通りに進みませんでした。
それでも時間だけはいたずらに過ぎていき、慌ただしいまま試合に突入しました。
出塁すると当然ながら盗塁するかしないかも子供たち自らで判断します。
選手の交代タイミングや、タイムも子供たちが判断します。
ベンチに入っている指導者は、守備位置の指導はもちろん、アウトカウントすら教えることも禁止にしていましたが・・・
結局、勝たせてあげたい気持ちといつものくせで、ついついアドバイスしてしまいました。おそらく大人が一番ルールを守ってなかったんじゃないかと思います。
これらの取り組みは2大会3試合で試みました。
勝率は2勝1敗、もしかしたら通常の体制で臨めば勝てた試合かもしれませんが、勝ち負け以上に子供たちは楽しく野球ができたんじゃないかと思っています。そして、何よりも今回の取り組みを通して、子供たちがさらに成長できたのではないかと考えます。勝率以上の事が得られたに違いありません。
この取り組みでは、多くの失敗もありました。その反省を次の試合に向けてさらに話し合い、次に生かすことができました。仲間と話し合うことで、協調性が養われ、個人では考えも及ばない新たな発想を生み出したり、自分の考えや他人の考えを共有することで、相手を思いやる心を培い、お互いを刺激し合うことで、相乗効果を生み出したに違いありません。
また指導者の立場としては、子供たちが思っていてもなかなか実現しない、普段とは違う守備位置を希望したり、打順決めがありましたが、初めてなのに想像以上にうまくはまる選手もいて、新たな気づきもありました。
長い間うまくいってしまうと、新しいポジションへの変更に躊躇いがちになりますが、そういった固定観念をも払拭し、果敢にチャレンジしていました。
そして、何よりも子供たちは楽しく野球をやっていたと思います。
不慣れな守備位置では、笑顔で励ましあいました。初めてだから失敗は仕方がないという発想が、相手を非難するのではなく、みんなで助け合おう、なんとかしようと励ます思考になった結果だと思います。
普段の試合以上に野球を楽しんでいた姿は、パワーズが目指す野球ができていたと思います。
練習時間を割いてまでミーティングを行い、話しあった時間は、子供達の将来の糧になるに違いありません。
最後に、このような取り組みが、もっともっと広がり、野球は楽しいもので、好きになってくれる人が多くなっていくことを期待したいと思います。
そして、今回、この取り組みをするにあって都合が良かったMizuno主催の野球大会の存在があります。大会理念も素晴らしいのですが、それよりもリエントリー制を導入した事だと思います。子供たちへのルールに追加で課した、「試合に全員を出場させること」の最大のネックは、一度外れるとその試合には出られないルールです。これは試合中に全員交代させてしまうと、万が一怪我で野球ができなくなってしまった場合、交代メンバーがいないので負けてしまいます。そうなると全員を出場させるのにリスクが伴い、結果、全員を出せなくなってしまいます。しかしこのリエントリー制があると選手を思い切って出場させることができ、その結果多くの子供たちに出場の機会を与えることが可能となります。このような大会が今後増えて、たくさんの子供たちが野球は楽しいものなんだ、野球をやってて良かったという実感が湧くようになっていってほしいと思います。